散乱透視科学

マルチスケール散乱・揺らぎ場の諸問題と「散乱透視学」が変革する融合学問領域

揺らぎや散乱は、図1に示すように、ナノメートルスケールのミクロな生命活動から、キロメートルスケールの大気揺らぎまで様々なところで現れる現象であり、この理解と克服が生命科学、予防医学、情報通信工学、天文学などの様々な学問領域でブレークスルーをもたらす。生体組織には、血管・骨・維管束などの組織レベルの構造から、細胞核・ミトコンドリア・葉緑体などの細胞内小器官、DNA・タンパク質などの高分子までの構造が大小稠密に混在しており、そこを通過した光はミ回折・屈折・反射などが起こり、散乱として現れる。そのため、観察・操作対象が存在するのが生体組織の深部であればあるほど、光の受ける影響は強くなり、結果としてイメージングの像が著しく乱れ、また特定の細胞だけを効率的に操作できなくなってしまう。多光子顕微鏡などの先端技術を用いても、比較的透明度が高い脳では1 mm、透明度が低い肝臓や植物地上部においては100 µmを超えた深度を高解像度で観察することは困難である。

また、光の乱れが問題になるのは、生体イメージングや光細胞操作だけではない。地上-衛星間大規模光通信などの空間光通信、地上望遠鏡を用いた観測天文学などの最先端分野において、光が通過する大気・空気の揺らぎが問題となっている。空気・大気よりも散乱の影響が強い、濁った生体組織の透明化が実現できれば、上記のような情報通信工学、天文学などの自然科学と工学の諸分野にも革新的な発展をもたらす。また、音波やマイクロ波を用いるとコンクリート内部の欠陥を非破壊で検査することができ、橋や建物などのインフラ設備の安全性を担保することに繋がる。

マルチスケールに適用可能な散乱透視理論をもとに、音や光、マイクロ波などの多様な電磁波を用いることで、今まで人類が見ることができなかった内部を可視化し、応用研究に取り組むとができる。これをもとに、図2に示すように様々な学問領域と融合し、変革をもたらすことに努める。

マルチスケール散乱・揺らぎ場の諸問題
図1:マルチスケール散乱・揺らぎ場の諸問題
「散乱透視学」が変革する融合学問領域
図2:「散乱透視学」が変革する融合学問領域